ふーみんLABO(仮)

26歳女が「納得できる自己紹介」を目指して執筆中。エコ・節約・映画など、私の頭の中を可視化するため、とりあえず色々書いてみようという実験です。

こんな今だから見て学びたい、韓国現代史。おすすめの社会派韓国映画5本+α。

最近日韓の外交関係がなかなか緊張していますが、私はこの1年ほどで韓国の映画やテレビ番組に親しむようになり、それもあって先月初めて韓国旅行にも行ってきました(その話はまた後日)。

前まで私の海外に関する関心は、中東を主軸に、比較的日本から遠い地域にありました。韓国については、「なんか外交的に色々もめている」「K-POPやドラマの勢いがすごい」「韓国好きな人多いし私はいいや」というくらいの認識。高校生の頃流行ったKARAは割と好きでCDやDVDを買ったこともありましたが、一時的なものでした。

その認識が変わるほどに韓国に関心を持つきっかけになった映画があります。その作品と、のちに見てぜひおすすめしたくなった作品を紹介します。

 

タクシー運転手〜約束は海を越えて〜(2017)


タクシー運転手 ~約束は海を越えて~(字幕版)(予告編)

私が初めて見た韓国映画です。民主化運動」に関する「実話を基にしたフィクション」ということに興味を持ち、映画館に見に行きました。昔から世界の近代化や民主主義の在り方に関心があるので、「韓国の民主化って何だろう、どう描くんだろう」という興味がありました。1980年、韓国南部の都市・光州で起きた出来事を追うドイツ人記者と、あるタクシー運転手の出会いという実話に基づいた物語です。

結果、見終わって軽く放心状態になるほど要素てんこ盛りで、驚くことばかりでした。その驚きを、その後得た視点も交えつつ整理してみます。

 

驚き① 韓国の現代史全然知らなかった。最近まで民主的でなかった。

1980年という、たった40年前に、隣の国で起きていた軍事独裁民主化運動。高校の授業で大統領の名前や事件名はさらったはずですが、それ以上のことを全然知らなかったことに気づかされました。

日本は1945年に終戦を迎え、日本にいると「戦争は何十年も前のこと」と思いがち。でも、近隣諸国では太平洋戦争が終わっても米ソの対立を軸に分断や戦争が起きたし、今だって世界のいろんな場所で戦争があるわけです。

朝鮮半島は、1945年に日本の植民地から脱したと思ったら米ソで分断され、南北に政府ができ、朝鮮戦争に発展。それが休戦になっても、韓国では1990年代まで軍事独裁などが続きます。今は普通に見える韓国が、自分が生まれる数年前まで民主的でなかったなんて、思いもよらなかった。そして、そういう「普通の民主的国家」としては韓国はまだ歴史が浅いのだと思いました。

 

驚き② 比較的最近の「自国で起きた負の歴史」を、タブーにせずここまで昇華できる、文化的な土壌。

自国で生まれてしまった軍事独裁。軍が本来守るべき国民に銃口を向け、無差別に銃撃したこと。犠牲になった人もたくさんいた一方で、その体制に加担していた人も、何も知らないまま見過ごしていた人も国内に多くいたはずです。他国にされたことの被害を訴えるならまだしも、自国内に加害者もいるようなことを知り振り返ることは辛いことです。しかしそんなことを韓国社会は受け止める土壌があるのだと思いました。

と言っても、特に最近韓国で支持を得るムーブメントの視点は多くの場合「権力に屈しない市民側」にあると感じるので(例:大韓航空“ナッツリターン事件”、朴槿恵前大統領弾劾)、権力を振りかざした加害者のことまで当事者性を持って見ているかは微妙なところです。

それでも、今の日本社会ができないことをあぶり出されているような気持ちになります。いま日本で「負の歴史を振り返る=今の否定・国の否定」みたいに捉えられがちなのは、結局、「ミスを注意されたり、反対意見を言われると人格否定だと思ってしまう」のと一緒で、文化的・精神的未熟さや信頼関係のなさがそうさせていると思います。マスコミで取り上げられる事件や事故の検証も一時的に盛り上がるだけのことが多いし、デモも選挙もそこまで盛り上がらない。太平洋戦争時の日本軍の加害については、振り返ることも反省も十分ではないと思います。

また、上記の通り「負の歴史も受け止める土壌」があるだけでなく、韓国はそれを国民的アイデンティティにしているとも感じます。過去の日本の植民地化も軍事独裁も教訓として、「国民として不義に立ち上がる正義感」を持っているのだろうと、映画でも、韓国で見た博物館の展示でも感じました。そう考えると、私としては最近の日本製品不買運動などが何故起きているか合点がいきます。

 

驚き③ 勧善懲悪をベースとして、見事にエンタメ化している。でも本格的。

少々悲劇的に盛り上げ過ぎなくらいの音楽やカーチェイスシーンには、やりすぎ感も覚えますが、わかりやすさもあります。このような要素を入れることで、ともすればすぐ重く難しく見えてしまうテーマを扱いながらも、エンターテイメントとして見応えのある作品になっている。だから歴史や時事に関心のない人にも作品を見てもらえて、より多くの人に作品のメッセージが届きやすくなっていると思います。

また、何も知らない視聴者を引き込む工夫として、主人公の設定が挙げられます。ソウルで学生デモを疎ましく思っていた運転手が、光州に行き、土地の人々の温かさに触れながら、そんな優しい人たちが軍に撃たれ死んでいく様を目の当たりにし、感情が揺れる。主人公の立場を「傍観者」から始めることで、視聴者も引き込まれていきます。

そして何より、作品のわかりやすさ・エンタメ化に寄与しているのが「勧善懲悪」の構図だと思います。韓国の映画やドラマは、勧善懲悪が本当に多いと感じています。特にこの作品では、軍や政府は徹底的に悪として描かれます。後で紹介する「1987」では、“赤狩り”の中心人物・パク所長が徹底的に悪く見えるよう、特殊メイクで目つきなどを変えているそう。わかりやすさも増すし、「“善”側が勝ってくれるに違いない」と思って見れる安心感も少しあります(それでも展開にハラハラするのは変わりありませんが)。

俳優の演技も皆とても自然で人間味があり、引き込まれました。デモや街の様子の再現もこだわりが感じられ、わかりやすいからと言って本格さに欠ける、ということは全くありません。

 

追記(2019.8.17):光州旅行記をアップしました。

映画で見たことをより深く知るために、韓国旅行で光州に行きました。その時の旅行記がこちらです。mizukifukui.hatenablog.com

 

以上のように、「タクシー運転手」で「韓国映画ポテンシャルありすぎる」と感銘を受け、以降映画館でも家でもいろんな韓国映画を見ました。その中でもおすすめの、見応えある社会派映画を紹介します。

 

1987、ある闘いの真実(2017)

youtu.be

1987、ある闘いの真実 (字幕版)
 

こちらも「タクシー運転手」と同じく民主化運動を描いた作品。こちらはより最近の、1987年に実際に起きた出来事に基づいています。

韓国映画はアクション映画でも有名なようですが、拷問のシーンはリアルすぎてメンタル削られます、、こういうことが実際にあったと思うとなおさら。検察を演じたハ・ジョンウさんの、飄々とした演じ方が粋でかっこ良くて好きです。

 

弁護人(2013)

youtu.be 

こちらも、1980年代の民主化運動に関する話。(このような作品の多さから、韓国で80年代の民主化運動の再評価が進んでいることがよくわかります。)ノ・ムヒョン元大統領が弁護士時代に担当した事件がモチーフとなっているそうです。

最初は稼ぐことばかり考えていた弁護士が、「息子が帰ってこない」と知り合いに相談されたことをきっかけに、政府が学生を捕まえ“反政府的活動”をもみ消そうとしたことに対し立ち上がる物語。

こちらも拷問シーンのグロさ・リアルさが印象に残っています。拷問を受け身体も心もボロボロになってしまった青年の演技も迫真に迫るものでした。

 

国選弁護人ユン・ジンウォン(2015)

youtu.be

2009年に実際に起きた事件に着想を得た作品だそうです。

再開発のため政府による退去命令が出た地域に立てこもる住民と、強制排除のため突入した警察の間で、警官1人と少年1人が亡くなります。警官の殺人容疑で逮捕されたのは、立てこもっていた少年の父。どうして少年は死んでしまったのか?警察による殺人ではないのか?最初は容疑者の弁護にやる気のなかった弁護士が、国の隠蔽に気づき、先輩弁護士と共に立ち上がる物語。

「タクシー運転手」「1987」でもそうだったのですが、「真実を伝えようと奮闘する新聞記者」がかっこよく描かれているのが印象的でした。「最初はやる気のなかった弁護士が正義のため闘う」というストーリーは、「弁護人」とも共通します。ここ約5年間の韓国映画の潮流を感じた作品でもあります。

 

JSA(2000)

JSA(字幕版)

JSA(字幕版)

 

こちらは、韓国と北朝鮮軍事境界線にある板門店(共同警備区域、Joint Security Area)を舞台にした作品。本当は絶対に許されない南北兵士の心温まる交流と、それがもたらした結末を、両軸で描きながら進んでいく物語です。

人間と人間の交流の温かさと、結末の悲しさが両極端で、見ているとずっとヒヤヒヤ・ハラハラさせられます。主演のイ・ビョンホンさんもソン・ガンホさんも、複雑すぎる感情を抱える兵士を演じ切っていて、引き込まれました。

未だに休戦状態で、南北分断の象徴でもある板門店。それがタブーになっていないどころか、そこを舞台にこんな作品が作れるというのも、感心してしまいます。

 

韓国社会派映画を支える、欠かせない実力派俳優2人

以上5作品紹介してきましたが、この中でも複数の作品に出ている俳優さんがいます。実力派の俳優さん2名をご紹介。

ソン・ガンホ

上記のうちでも、「タクシー運転手」「弁護人」「JSA」で主演。カンヌ映画祭パルムドールを今年(2019年)受賞した韓国映画「Parasite」でも主演している、韓国映画界に欠かせない存在です。韓国映画を見ていると多くの作品で遭遇する一方、毎回完全に役に馴染んでいて素晴らしい。“人間味ある普通のおじさん”な雰囲気が好きです。

 

ユ・ヘジン

「タクシー運転手」「1987」「国選弁護人 ユン・ジンウォン」に出演。ガンホさんと同じく“普通の人”を演じるのに長けていながら、以下で引用したサイトで書かれているように(言い過ぎかと思いますがw)、ある意味「ブサイクで印象に残る」顔で、「普通でありながら存在感がある」へジンさん。バラエティ番組「三食ごはん」等の出演でも有名。ファンです。笑

ボタン穴のように小さくて鋭い目、飛び出た歯、頑丈そうに見える肌の色と顔の輪郭。あたかも美女と野獣に出てくる野獣のように無愛想に見えるユ・ヘジンだが、意外に素朴でソフトな最高に純真な男だ。

芸能人とは縁が遠そうに見える外形の彼。忠武路で縦横無尽に名品助演として活躍するまで、約20年という歳月が流れた。
ユ・ヘジンのプロフィール

名脇役」という側面も大いにあるのですが、彼の主演作もまた面白いので、おまけとして挙げておきます。

おまけ① LUCK-KEY(2016)

▼日本の「鍵泥棒のメソッド」を原作としています。ジャンルも含め何も知らずに見た方が、驚きがたくさんあって面白いはず。大好きな作品です。

LUCK-KEY/ラッキー(字幕版)
 

おまけ② レッスル!(2018)

ヘジンさん演じる子煩悩シングルパパとその息子、そして2人が住む部屋の大家の娘、この3人の「謎の三角関係」が面白いコメディ作品。思春期の子どもと親の関係や、大人になっても何かとうるさい親との関係など、クスッとしつつもほっこりしたり考えさせられる場面もあります。
youtu.be

レッスル!(字幕版)

レッスル!(字幕版)

 

おまけのおまけですが、こちら▼はソン・ガンホさんとユ・へジンさんが出演する「辛ラーメン」のCM動画。シリアスな映画にも多く出演する2人のこういう姿も、微笑ましくて好きです。
youtu.be

 

この1年ほどで触れてきた韓国映画について思うことを詰め込んでみました。映画は、世界を知る窓になります。「こういう映画が作られ、人気を得る社会」だということを考えると、今の韓国の姿勢も少しは理解できるんじゃないかなと思っています。

またいろんな切り口で、違う作品を紹介していけたらいいな。