ふーみんLABO(仮)

26歳女が「納得できる自己紹介」を目指して執筆中。エコ・節約・映画など、私の頭の中を可視化するため、とりあえず色々書いてみようという実験です。

副業が自分も会社も救う? “日本の外国”を追体験できる、「アジア新聞屋台村」読書録。

冒険譚で知られるライター、高野秀行氏の「アジア新聞屋台村」という本を読みました。この作品は、東京・新大久保に事務所を構える、アジア諸国のスタッフが在籍する不思議な会社に関わることになった著者の経験をもとに書かれています。

※↓こちらは文庫版。私が読んだのは2006年のハードカバー版。

アジア新聞屋台村 (集英社文庫)

アジア新聞屋台村 (集英社文庫)

 

彼の著作に興味が湧いて、図書館で彼の本を探して、ちょうどあったので手に取った本でした。期待していた“海外の話”じゃないのか〜と思いながらも、楽しくすぐに読み切れました。

日常のドタバタ感や異文化との出会いを読むのが楽しい一方で、とても示唆深い発見もありました。

 

あらすじ

コラム執筆の依頼をきっかけに、アジア諸国の出身者やその国に興味のある日本人向けの新聞発行などを手掛ける会社「エイジアン」と関わるようになった筆者。台湾出身のエネルギッシュな女性社長・劉さんを筆頭に、多国籍なスタッフたちと「屋台村」のように寄せ集まって、新聞発行をしていく数年間のストーリー。


そんなストーリーの中で、一番印象に残ったエピソードを以下に紹介します。

 

副業は、自分のためにも、会社のためにもなる。

最近、副業を持つ生き方・働き方が広まって来ているようです。「副業を解禁する大企業」のニュースも目にしたりします。しかしそういう“副業の許可・推進”って、「社員を確保する」「副業での知見を本業にも生かしてもらう」みたいな文脈で言われていることが多いと思います。

しかしこの本で描かれていたエピソードで、とても本質的で納得いく「副業の捉え方」と出会いました。

あるとき、社長・劉さんが大掛かりな詐欺に巻き込まれ、会社の資金繰りが苦しくなり、社員やその他スタッフへの給料を数ヶ月払えなくなってしまいます。

しかしそれでも、アジア諸国から日本にやって来てエイジアン社で働く皆は、社員・アルバイト・ボランティアといろんな立場であり、かつ他に仕事をしている人ばかりだったのです。だから皆、エイジアンでの給料が入らなくなっても、なんとかしのぐことができたそう。

エイジアン人はみんな、自立しているのだ。会社の歯車なのではないのだ。だから、所属している会社が揺らいでも、本人たちは揺らがない。

(p224より)

そしてもう一つ。これまで「片手間にやっている」いい加減さがあり、責任感がないと思っていた「副業もしているスタッフたち」。しかし、事件の前に入社した日本人たちが、自分たちが辞めたらどうなるかわかっていながら、給料が出ないという理由で辞めてしまったのを見た筆者は、考えが変わります。給料が出なくても会社に居て役割を果たしているエイジアンのスタッフは、まさに「会社の危機を救っている」ということに気づくのです。

だいたい、社員が全部辞めてしまったら、会社自体が即潰れてしまうのだ。
結果的に、どちらの方が責任を果たしているのか。
今さら比べる必要もない。

これってつまり、「副業をしているスタッフは会社を救える」ということではないでしょうか。

この作品の当時も、今も、日本ではまだまだ、会社などの雇用先に依存した働き方が多いと思います。そんな中エイジアンで出会った異文化な仕事の捉え方・生き方は、今の社会にとっても、とても示唆深いものです。筆者の気づきを、まさに追体験した気分になりました。

私自身、いろんな収入源を持つ生き方をしたいなと思っています。そして、副業や“片手間でやる仕事”がもっと身近になれば、必要な仕事がなくならずに済んだり、ちょうどいいサイズの個人の小商いがもっと広がったりするんじゃないかと思っています。

副業を解禁する大企業が、そのメリットとして「会社の危機」を想定することはなさそうですが、「副業は、個人の自立のためにも、会社の存続のためにもなる」という考え方は、もっと広まってほしいなあと思いました。

 

他にも、常識が通用せず予想のつかない日々や、スタッフたちへ向けられる筆者の観察眼など、発見も面白さも色々ありました。

巷で言われる「異文化」は言葉や振る舞いに関することかもしれませんが、この本で描かれる異文化は、それよりも一歩進んだものに思えました。非日常をゆく冒険譚ではなく、日常の日本で、しかも長い期間関わって見えた異文化との出会いだからこそ、その気づきは鮮明だったのかもしれません。

インターネットの記事やSNSなどからも、簡単に外国の生の情報と出会えるようになった昨今。この作品で描かれる当時は、ネットも今ほど普及はしておらず、新聞が「外国への窓」としてそれなりに役割を果たしていた頃です。なのである意味、いろんな場面が前時代的でノスタルジックにも思えましたが、その分、今よりも濃かったかもしれない“日本での異文化体験”の記録としても興味深い話でした。

アジア新聞屋台村 (集英社文庫)

アジア新聞屋台村 (集英社文庫)