隠しやすくもなり、隠せなくもなってきた時代。韓国映画「完璧な他人」感想。
先日、とある韓国映画を映画館で見て来ました。それがこちら、「完璧な他人」。
私が大好きな韓国のバラエティ番組「三食ごはん」(各シリーズを見始めて1年半くらい経つのに今だによく見返しております)のメインキャストとも言える、俳優のイ・ソジンさんとユ・へジンさんが共演しているので、映画館で見るのをとても楽しみにしていました。
もうすぐBlu-ray/DVDが出るらしいというタイミングながら、ようやく地元のミニシアターにやって来たので、満を辞して見てきました。
ストーリー・登場人物
地元の同級生で40年来の男友達グループとその妻が、月食の夜に、仲間内の夫妻の引越し祝いの食事会を兼ねて久々に集合。「40年来の友人に秘密はない」と豪語する男たち。
そんな彼らを見た女性の提案で、「それなら、これからスマホをテーブルの上に出して、全ての着信の内容を見せ合おう」というゲームをすることに。スマホを通じて、配偶者も幼馴染も知らない「大人の秘密」が暴露されていくブラックコメディーです。
ちなみに、イタリアの映画作品「大人の事情」のリメイク版だそう。
登場人物の夫婦たちは
といった顔ぶれ。小気味良いほどに、彼らに何かが起きていきます。
ではこれから、ネタバレありでストーリーや感想を書いてみます。
明らかになる「秘密」を整理
明らかになっていく「秘密」は、覚えているだけでもたくさんありました。登場人物ごとに列挙すると、
- 美容外科医ソクホ:二十歳の娘がコンドームを持っていたのは、自分が渡したから。妻との関係に悩み、カウンセリングを受けている。不動産投資の失敗(詐欺?)で借金を抱えることになる。
- 精神科医イェジン:豊胸手術を受けようとしている。ジュンモと不倫関係にある。
- 弁護士テス:妻が運転中人を引いてしまったのをかばい、免許停止中で、もうすぐ裁判を受ける。12歳年上の女性にアプローチされている(orすでに不倫関係?)。
- 専業主婦スヒョン:運転中人を引いてしまった。保守的な夫の下でのストレス発散のため、派手な(?)ショーツを履いて外出している。
- 飲食店経営者ジュンモ:店の女性スタッフと不倫関係にあり、彼女が妊娠する。イェジンとも不倫関係。
- 獣医セギョン:本当は、自分で動物病院を開き、家庭や子どもに縛られない自立した生活をしたいと思っていた。
- 体育教師ヨンベ:ゲイであり、男性の恋人がいる。勤めていた学校を辞めさせられた。
ま〜みんな色々あるよな。って感じですね。笑
他にも、仲間内で「呼ばれてない」みたいなことも明らかになり、
- イェジンが講演会をしたとき、セギョンは招かれたが、スヒョンは知らされず
- 男性陣でゴルフに行く約束があるが、ヨンベは誘っていない
という。
どんどん修羅場になっていく食事会。秘密がバレたり、誤解もあったりで、なかなか悲惨な結末になっていきます。
感想
SNSやスマホのせいで、隠しやすくもなり、隠せなくもなってきた時代。
見ていて思ったのは、「SNSやスマホのせいで、秘密を隠しやすい時代にもなり、隠せなくもなってきたんだな」ということ。
一見完全に矛盾していますが、まず「隠しやすい」というのは
という意味で。そして「隠せない」というのは
- SNSに投稿すると、「いつも見られてる感」「監視されている感覚」がある
- メールやスマホのせいで「いつでも返事できる状態」が期待される→返事をすぐしないと勘ぐられる
- スマホに連絡すれば全て「直に」繋がってると思うので、スマホ見られると全部バレる
- 形に残る「連絡」が増えてる(メールなどの文章はもちろん、電話も、着信履歴や連絡先などがすぐわかる)
という点。この、「隠せない」ということに、私は息苦しさをすごく感じています。逃げ場がない感じがして。
「正直でいたい」「自他に対して矛盾が許せない」気持ちが強いので、SNSで投稿しておきながらこの人に連絡返してない…とかいう状況(よく陥る)は罪悪感がひしひしと積もります。SNS間やリアル・ネット間どちらもで繋がっている人が多い状態だと、そういう“矛盾”が生じやすいのでしんどい。「そう思うならすぐ返事すればいいのに」と思われるかもしれないけど、それがなかなかできないから苦しいのです。
あと、友人同士が知らないところで会ったりしていると「私は誘われなかったんだな〜」「私がいなくても楽しそう」と思ってしまう。楽しそうな写真が暴力的に写ります。「知らない方が幸せだった」とよく思います。
このように、妬みとか寂しさとかが湧いてきて、とことんネガティブな感情になって傷ついてしまうので、知人のSNSは今はほとんど見ていません。見るとしても、タイムラインから「不意に情報が飛び込んでくる」ことがないように、「フォローしているアカウント」のページから見ています。
そんな身近にもあることがブラックコメディーとして描かれているのは、なかなかヒリヒリする感覚にもなりました。内心焦りながらも平静を装い、ごまかしたり隠そうとする人間たちの演技も、皆見事でした。
「バレた」ことが、必ずしも全部悲惨ではなかった
ほとんどの秘密が悲惨な結末に繋がっていくのですが、一方で、少しはほっとできる場面もありました。
1つは、ヨンベがゲイであることをカミングアウトする場面。テスが女性との関係を隠すために、同じ機種を使うヨンベとスマホをこっそり交換したことで、「男の恋人から熱いメールが来る」のがテスとされてしまい、妻スヒョンは「夫はゲイだったんだ」と大きなショックを受け、離婚すると言い始めます。また、ジュンモは「40年も友達なのに、なぜ言ってくれなかったんだ」と怒ります。
その誤解騒動が収まらないまま、スヒョンは出て行ってしまい、男性陣だけ残ったところで、ようやくヨンベが「ゲイなのは僕だ」とカミングアウトします。テスが「2時間だけゲイになってみたけど、大変だった」と言うのは、騒動の後だけになかなか重み・深みがあったように思いました。ヨンベがこの日カミングアウトしようとしていたかはわからないけど、「秘密として隠さざるを得ない社会」も描いているように感じられて好感でした。
また、美術外科医ソクホが、娘と電話で話す場面もじーんとしました。娘が「もうすぐ兵役に行く男の子(彼氏?)が、今夜は一緒にいたいって言うんだけど、どうしよう」と、色々うるさい母よりも信頼しているようである父に電話で相談してくるという。
二十歳にもなってそんなことを、しかも父親に話すなんて、あり得ない…!!と私は思いましたが、韓国は日本よりも貞操観念が強いみたいだし、ありうるのか?と半分納得しながら見ていました。でもある意味、「普通秘密にすることをちゃんと相談してきた娘」という、作品で主に描かれる“大人の秘密”とは逆方向の場面として描かれていたのかもしれません。
そこで周りの友人夫妻にも会話を聞かれつつも、しっかり娘の思いを受け止めて向き合うソクホの姿。本当はそんな会話を、ソクホも聞かれたくなかっただろうけど(しかもコンドームを渡したことがここで妻たちにバレるという)、言葉にできない、じんわりとした良い余韻が残る場面でした。
おまけ:イ・ソジンとユ・ヘジンの役どころ
ついでに、私が楽しみにしていた俳優二人の役どころについてちょっと書き残しておきます。
イ・ソジンさんは、下ネタを連発し、3股をかけるチャラ男・ジュンモ役。「圧倒的イケメンっぷり」のおかげか、これまで不倫相手役や御曹司役などで見てきましたが、ここまで「イケイケな役」とは。バラエティで「愛なんか信じない」みたいなことまで言ってる分、ギャップがすごかった。
一方、ユ・へジンさん。実直な役が似合う人で、今回はその実直さもありつつ、それを通り越して「堅物」という言葉が似合うような役柄を演じていました。「ゲイ疑惑」を必死で弁解して“らしくない”面も見せていく様子や、ヨンベのカミングアウトを聞いて安堵する様子などは見事でした。
なんでも知ってるつもりになる近い人のことほど、秘密は知りたくない。知らない方が幸せなこともたくさんある。そんなことを改めて感じた2時間でした。
コメディー的な要素もふんだんで、ジュンモが直接的な下ネタを頻発したり、やりとりや言い合いに笑えたり、単純に面白がれる場面も多かったです。
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