“辺境作家”高野秀行氏のノンフィクションが面白すぎる!これまで読んだ11冊まとめ&おすすめ。
ライター・ヨッピー氏のこのツイート↓で、ノンフィクション作家・高野秀行氏を知りました。
何度も言いますが、高野秀行さんの本は本当に死ぬほど面白いので皆さん読んでください。
— ヨッピー (@yoppymodel) November 12, 2019
「アヘン王国潜入記」は流石に皆さん全員読んだと思うので、次は「西南シルクロードは密林に消える」を読んでください。58件のレビューで星5の作品です。 pic.twitter.com/zFtNiXlXP6
「読んでみたいなあ」と思いつつ先延ばしにしていましたが、1月から2作読んで彼の作品にハマり、この一ヶ月ほどでいろんな作品を読みました。目ぼしい作品でまだ読めていないのもありますが、一旦これまでに読んだ作品をまとめつつ、おすすめを紹介します。
どんな作家?
高野氏は1966年生まれ。1988年・早稲田大学4年の時、所属していた探検部で、幻の怪獣“ムベンベ”を探しにアフリカのコンゴへ行きます。その話を部を代表して書き上げ、部の名義で出版したものがデビュー作です。
それ以降も、誰も行かないところ=辺境を旅してその話を作品としてきた「辺境作家」です。また、日本国内での体験もいくつか作品にしています。
魅力・すごいところ
言語力
どこへ行くにも、まず言語を学んで行きます。今まで世界各地を旅しているので、わかる言語は10はゆうに越しているはず。たくさんの国に行っていると「もういい」ともなりそうですが、言語学習は欠かさずやっているよう。
日本国内でその言葉を母語とする人などを探して、その人の元に通い、習得していくという方法も、マイナーな言語でテキストがない場合も多いとは言えども、相手の文化をちゃんと知り尊重しようとする姿勢を感じて、尊敬します。
もっとも、本人としてはこのように書いています。
私にとって、外国へ行く前の現地語学習というのは、精神安定剤みたいなものでもある。言語の学習は最初のうちはやればやるほど上達するので、なにやら計画自体が「ぐいぐい前進している」ような錯覚が得られる。「オレ、頑張ってるな」という自己満足にも安直に浸れる。
「怪魚ウモッカ格闘記」p95より
「エンタメノンフ」の捉え方・軸
世の中には報道・ドキュメンタリー色の強い「高尚なノンフィクション」もそれなりに多い中で、高野氏のノンフィクションは基本的にエンタメです。
高野氏のこんな言葉に心底共感しました。↓
私の好奇心は必然的にジャーナリズム的な関心と重なってくるところがあり、一時はかなりそちらに傾倒した。だが、ジャーナリストと呼ばれる人たちと話をしたり、新聞、雑誌、関連書などを読みあさるうちに、何かちがうなという異物感が腹にたまってきた。(中略)
その異物感を一言で言うなら、多くのジャーナリズムというのは上空から見下ろした俯瞰図だということだ。べつな言葉に置き換えると、客観的な「情報」である。「木を見て森を見ず」という戒めに忠実に従っているのだろうが、悪くすれば「森を見て木を見ず」の姿勢ともなる。それは不特定多数の人に伝わりやすいが、手で触ることができない。「ビルマ・アヘン王国潜入記」p11〜より
私自身にとっても、ジャーナリズムやジャーナリストはとても興味のある分野・職業です。しかし、ここで書かれているようなことを思ってもいて。机上の空論が嫌で、自分の目で見て体験することで「自分ごとを増やす」のを大切にしてきたつもり。だから、こういう考え方でいる彼の作品が好きなんだなあと思いました。
また、「メモリークエスト」の、作家・中島京子氏による解説で、こんなことが紹介されていました。↓
何回目にお会いしたときだったか忘れましたが、高野さんは言いました。日本の物書きの世界では、深刻な書き方をした方が高尚で、笑えるものは格下のような扱いを受けるけれども、こういう偏見とは戦っていきましょうねーー。ちょっと言葉は違ってたかもしれませんが、そういう意味のことを言って、私たちは共闘を誓って別れたのでした。
かっこよすぎる…!!と心が震えました。
なんでもネタにする、アウトプット欲・執念(!?)
失敗も含め、なんでもネタとして作品にしている姿勢に、グッときます。一緒にしたら失礼でしょうが、なんかブロガーみたいで。笑
でもそれでいて自身のモットーからは外れていないので納得感はあるし、「この人が書いてるなら面白いはず」と思って、ぱっと見そこまで惹かれないものでも読んでしまいます。
「これはうまく行くのか?」「これからどうなるのか?」とハラハラさせられるのは、昨今人気のリアリティーショーのような面白さも感じます。
これまでに読んだ作品一覧
現時点で、読んだ作品は11冊。文庫になっているものも多いし、面白さも手伝ってサクッと読めるので、図書館で次々に借りて読みました。読んだ順で並べてみると以下のようになります。
作品名 | 初版出版年 |
---|---|
アジア新聞屋台村 | 2006 |
謎の独立国家ソマリランド | 2013 |
メモリークエスト | 2009 |
幻獣ムベンベを追え | 1989 |
恋するソマリア | 2015 |
未来国家ブータン | 2012 |
ビルマ・アヘン王国潜入記 | 1998 |
ワセダ三畳青春記 | 2003 |
腰痛探検家 | 2010 |
世にも奇妙なマラソン大会 | 2011 |
怪魚ウモッカ格闘記 | 2007 |
※単行本・文庫どちらもで読んでいて、文庫化される時に改題されているのもありますが、読んだ方の題を書きました。出版年は最初の単行本が出た年を書きました。
おすすめの作品たち
では、何点かに分けて、おすすめの作品を紹介します。Amazonのリンクは文庫版です。
見事な深さ
私が二作目に読んだ「謎の独立国家ソマリランド」。これはすごい!!!という読後感は今でもよく覚えています。
以前も記事にしましたが、これは本当に勉強にもなったし、かつとても面白い作品でした。知識欲(英語で言うところのInteresting)も単純な好奇心・楽しみたい欲(Fun)も満たされました。おすすめです。
ちなみに、この続編にあたるのがこちら、「恋するソマリア」。
青春を感じる三作
「青春」を描いた作品(特に日本国内での経験を作品にしているもの)は多分まだあるのですが、私が現時点で読んだのはこの三作。
まず、結果的にデビュー作となった「幻獣ムベンベを追え」。何作か読んだ後だったので、いろんな場面で「この経験があるから、今のこういう姿勢があるんだなあ」と思わされました。
正直、書き方や内容が飛び抜けて面白いわけではないと思うのですが、当時の大学・大学生・早稲田・探検部の雰囲気も伝わってきます。
もう数年早くこの作品に出会えていたら、私も中東渡航の話とかこうやって書いてみたかったなあwとも思いました。
2つ目、「ワセダ三畳青春記」は、大学のすぐ近くの三畳間(のちに四畳半)に住んだ11年のことを描いた作品。個性豊か(?)な下宿人やトラブルのエピソードが次々と描かれるので、とても読みやすいし面白い。
そして後述の「アジア新聞屋台村」でもそうでしたが、居心地が良い居場所を「卒業」していく過程は、青春の苦々しさや“成長”というものを感じ、沁み入りました。
そして、3つ目は「アジア新聞屋台村」。こちらも以前記事で感想を書きました。
発想が面白い三作
良い意味で「なんだそれww」「この発想はなかった」と思ってしまうようなことが作品の軸になっている三作。「こんなことが作品になるなんて…」と驚かされます。
「怪魚ウモッカ格闘記」は、探しに行く“まで”の過程が作品になっていると言えます。あとは読んでのお楽しみ。笑
2つ目、 「腰痛探検家」は、辺境作家としての作家生命を脅かすひどい腰痛に悩まされたことから、「自分の体、多様な治療法こそ未知・秘境」という視点で、様々な治療を試していく過程が描かれています。タイトルや紹介文を読んだ時は「そうきたか!!」と発想力に感動すらしました。そしてそれを裏切らない面白さでした。
腰痛という、程度は違えど多くの人が経験したことのあることから、こんな作品ができるのか…!と感心しました。治療の過程で出会う人々も、その描写も面白くて笑えました。
3つ目、「メモリークエスト」は、雑誌の読者から「探して欲しい人」を募集し、少ない手がかりから世界中のその人たちに会いに行く話。いわば、他人の記憶を辿る旅です。
ノンフィクションというと完全に自分の実体験からスタートしたり、それかもっと世の中に知られるべき人たちへの取材みたいなものからスタートするのを想像しますが、そのどちらでもない。他人の話が自分の体験になっていく不思議なストーリーでもあります。
ぜひ、興味のあるテーマや国からでも、読んでみてください。
作品を通して描かれる高野氏の生き様に、共感もしながら惹きこまれ、すっかりファンになってしまいました。今後もまだ読んでいない作品を追っていきます。