ふーみんLABO(仮)

26歳女が「納得できる自己紹介」を目指して執筆中。エコ・節約・映画など、私の頭の中を可視化するため、とりあえず色々書いてみようという実験です。

映画「スキャンダル」を見て思う、セクハラが残す苦悩。

2/21に公開された映画「スキャンダル(原題:Bombshell)」を見てきました。アメリカで起きた実話に基づいていて、ある有名女性キャスターがテレビ業界の大御所ともいうべき人物をセクハラで訴えた件を描いている作品です。

内容も、物語が進む速さも「ついていくのがやっと」というような感覚にもなりましたが、「こういうことがあったのか」と映画を通してちゃんと知ることができたし、考えさせられる内容でした。

中身を振り返りつつ、思ったことをまとめてみます。

 

あらすじ・登場人物

アメリカのケーブル局としては最大で、保守派の視聴者から支持されているテレビ局FOXニュース。ここを主な舞台として巻き起こった、セクハラの公表や訴えに至るまでの模様を描いた作品です。

主な登場人物は以下のような人々。

ロジャー・エイルズ(実在、2017年死去)

FOXニュースの会長兼CEO。これまで、共和党出身の歴代大統領(ニクソンレーガン、父ブッシュ)を選挙時にメディアコンサルタントとして支えてきた人物でもあり、政治的影響力も大きい。
70代となり、肥満と病気で歩行にも不自由しているが、常に放送をチェックし檄を飛ばしている。曰く「テレビは視覚メディアだ」とのことで、視聴者を惹きつけるためにも女性キャスターの外見に厳しい。


レッチェン・カールソン(実在)

FOXの元キャスター。ロジャーをセクハラで訴えた。ロジャーの性的な誘いを断ったことで、視聴率も良く人気もあったプライムタイムの番組から、視聴率のふるわない午後の番組へ事実上「降格」され、のちに解雇もされたことで裁判を起こした。他にも多くいるはずのロジャーのセクハラ被害者の公表・告発を待つ。


メーガン・ケリー(実在)

FOXで冠番組を持つ、看板キャスター。当時進んでいた大統領の候補者選挙の際、討論番組でトランプ氏に“噛み付いた”ことから、嫌がらせのツイートをされる。
10年以上前にロジャーからセクハラを受けたことがあったが、当時内部で相談をしても何も起きなかったことや、セクハラされたことが一生イメージにまとわりつくのを恐れ公表を躊躇う。


ケイラ・ポスピシル

憧れのFOXでキャスターの職に就いたばかりの新人。仕事のミスを挽回し昇進を目指そうと、ロジャーの秘書に近づく。するとすぐにロジャー本人に会わせてもらえ喜んだものの、そこで嫌がらせを受け、事が発展していってしまう。

 

公式サイトでは、実在の人物に関しても紹介されています。gaga.ne.jp

 

元になった事象

物語の前提ともなっていることをいくつか、改めてまとめてみます。

 

FOXおよびFOXニュース

数々のメディアを買収し事業を拡大してきた「メディア王」ルパート・マードック氏が、1986年にテレビ局FOXを設立。

1996年、リベラルに傾倒した主流メディアに対抗するテレビ局を目指し、ニュース専門ケーブルテレビ局FOXニュースを設立。社長にロジャー・エイルズを据えた。

2001年の同時多発テロ以降は愛国心を前面に打ち出し、2002年には視聴率がCNNを抜き、ケーブルニュース局のトップに。

(参考:毎日新聞2019.6.15 東京朝刊「米大統領とFOX:/上 トランプ氏をプロデュース キャスター「直通電話」」)

 

訴訟

2016年7月、元FOXのキャスターであるグレッチェンがロジャーをセクハラで訴えた。ロジャーは会長を辞任。

 

感想、思ったこと

ネタバレを含みつつ、思ったことをいくつか。

 

内容がちょいむずい&早い。予習が要るかも。

アメリカのメディア事情がよくわかっている人は、内容にもそれなりについていけると思います。しかしそうでない場合は、映画の冒頭で紹介があると言えども(良い工夫ではありましたが)、人間関係や構造がいまいち把握しきれないまま話が進んでいってしまう感じがありました。そういう点では、結構アメリカ国内向けなのかなあという感じもしました。

でも一方で、MeToo運動を始め、世界的にセクハラの批判や告発は増えていると思うし、残念ながらセクハラはそれだけ場所を選ばず起きてしまっていること。多様な主人公たちのあり方や考え方にはそれぞれ共感しました。

 

セクハラで嫌な思いをしたのは共通しても、それをどうするかは人ぞれぞれ

物語で特徴的だったのは、主人公の女性キャスターたちが、ほとんどお互いに関わりを持たないということ。なので、協力してやっつける!みたいな痛快さはないです。事実ベースなのもあって、もやもやしたり考えさせられる映画でした。

レッチェンは解雇を受けて、その後個人で個人(ロジャー)を訴えるという手段を選びました。そして、他の告発を待つという。会社内部に被害者=仲間となりうる人がいるはずなのに、協力はおろか、話や相談をしたりもしないというのは、「個人主義だな〜」と思いました。日本だったら絶対根回しする気がして。

また、メーガンは、最初は被害の公表を躊躇っていました。ロジャーからはセクハラだけでなく、有用なアドバイスも十分もらっていて、それで成長できて今の立場があるから。しかし周囲の求めや流れに乗る形で、のちの内部調査で被害を受けた話をします。恩も感じている人を告発するというのは、複雑な思いでしょう。

そしてメーガンは他の被害者の存在を嗅ぎつけ、誰が被害に遭ったのか知り、その一人であるケイラに話しかけます。セクハラのことを誰にも言えなかったケイラは、仲間がいたことには喜びますが、メーガンが10年以上沈黙していたことに対して憤ります。その10年で被害も増えたし、その中に自分もいるという事実は重い。当然の怒りではあります。

主に描かれる女性キャスター三人は、こうして色んな立場・考えでいます。「この三人はどこかで交わるんだろうか?」というのを、少し期待しつつ見ていましたがそういうことはほとんど起きず。セクハラというものが生む複雑さや、色んな理由があると言えどもなぜか苦渋の“選択”をさせられるのは被害者であるということの不合理さを考えさせられました。

 

型にはめられた「理想の女性像」

ロジャーは脚フェチで、全身のスタイルや脚の綺麗さで女性キャスターの採用を判断します。キャスターたちは短いタイトなワンピースを着こなすため、胸にはパッドを入れ、靴擦れに耐えてハイヒールを履き、無駄に全身を写され、脚に向けた照明まで用意されます。

こんな描写が何度かあり、ひえ〜〜となりました。私は化粧とヒール(を女性は身につけるべし、という無言の圧力)に抵抗があるので、なおさら「痛そう〜」「人前に出ると言えどもここまでしなくても良いのに」「こんなのやだ」と思いました。

ロジャーをはじめとする製作者や、視聴者の男性にとっての「理想の女性像」を押しつけられる女性キャスターたち。そもそも採用されるのも、その視点に適った人だけ。

画一的な外見にされてしまっている描写も相まって、「金髪の白人女性ばかりだけど大丈夫か」と、昨今のコンプラ的に心配になってしまいました。あれだけザ・白人な人ばっかりの絵面は久々に見た気さえします。笑

 

まとめ:セクハラっていう言葉は軽く聞こえるけども

セクハラって、その時はよくわからなかったり、何が起きていたか理解できなかったとしても、その後は長きに渡って「あれって何だったんだろう」「ああすればよかった」などなど、本当に色んな苦悩を生みます。やった本人は冗談や軽い遊びのつもりで、その当時の自分も同じように受け止めたとしても、です。

以前もセクハラについて考えたことがありましたが、映画を見て改めて、セクハラって何なんだろうなと考えました。今の私が至ったのは「人を人として見ない行為」なんじゃないか、ということ。嫌だとか怖いとかよりも、虚しくなるんですよね。「この人が見ていたのは“私”じゃなかったんだ」と、残念に思う。

日本語ではかろうじて「性的嫌がらせ」と訳される「セクシャルハラスメント」。略して「セクハラ」。嫌がらせっていうとなんかみみっちいものにしか聞こえないし、セクハラは消費されすぎている。もっと良い、重みのある訳語はないものか、と考えています。

 

アメリカでのFOXの立場や影響力、FOX内で働く人たちの苦悩や考え方(まあどれほど忠実に再現されているのかわからないのですが)なども勉強になりました。キャスターたちの、働きながら&悩みながら決断していくあり方もかっこよかった。

原題のBombshellは「爆弾」、そして「センセーションを起こす人」を意味するそう。MeTooの運動にせよこの映画にせよ、こうして何かしらの動きを見せてくれた人に敬意を払いつつ、自分も少しの変化を生めるようでありたいと思いました。