ふーみんLABO(仮)

26歳女が「納得できる自己紹介」を目指して執筆中。エコ・節約・映画など、私の頭の中を可視化するため、とりあえず色々書いてみようという実験です。

司馬遼太郎の視点と知識で、韓国を旅してみる。「街道をゆく2 韓のくに紀行」感想録。

特に何を買う気もなく、古本屋をうろついていたら見つけた文庫本、司馬遼太郎の「街道をゆく」シリーズ

司馬遼太郎の作品は全く未読でしたが、旅行記も書いてたのか」と気になり、後日シリーズの作品群を調べて、目ぼしいものを図書館で借りてみました。

最初に読んだ、シリーズ2作目の「韓(から)のくに紀行」。1971年に韓国を旅した時の連載文がまとまっています。

(※私が読んだのはおそらく初版である単行本ですが、見つからないので文庫版のリンクを貼っておきます。後の引用ページは単行本のもの。) 

街道をゆく 2 韓のくに紀行 (朝日文庫)

街道をゆく 2 韓のくに紀行 (朝日文庫)

 

私自身も一番最近行った国でもあり、何かと文化や考え方が気になる韓国。当時の韓国はどんな風だったのか、彼がどこで何を見てどんな文章を連ねたのか気になり読んでみました。すると予想の数倍面白くて引き込まれ、丸1日で読み切ってしまいました。いや〜おもしろかった。

発見や思ったことが沢山あったので、まとめてみます。

 

儒教文化とは何たるかがなんとなく掴めた。

これまで、「韓国では儒教文化が根強い」というような文をいろんなところで目にしてきましたが、「日本だって少なからずそうだし、儒教についてそんな際立てて言うほどのものだろうか」と思っていました。

しかし本作を読んで、儒教を生んだ中国の在り方と合わせて、「そういうことか〜」と納得できた部分が多かったです。例えば以下の部分。

  • 儒教国家というものは自然のままの人間というものをみとめない。人間は秩序原理(礼)でもって飼い馴らしてはじめて人間になる。そうなっている。(p175)
  • 一原理によってぼう大な数の人間を飼い馴らすというのが中国古来の国家のしごとであり、(略)(p175)
  • 中国の官僚は儒教の牧師であるとともに行政者である(p176)

ここの部分は昔の中国の話ではありますが、今の中国の在り方も全く当てはまります。「共産党体制になっても本質的には変わってないんだな」と考えが至りました。

そして、上記のような話が新鮮味をもって読めるということから、「考え方が日本とは違うんだな…?」「儒教については知らないことが多そう」という実感が少し湧いた気がします。近隣の大国であり、日本も影響を受けてきたはずの中国の考え方には前から少し関心がありますが、その気持ちが強まりました。

 

全然今と違いそうな、当時の農村。

本作では、多くの部分を田舎や農村の旅に当てています。私もそういう場所の旅は好きなので、共感できました。

そしてここで描かれる、当時の韓国の農村がかなり伝統的な文化を残しているようで、驚きました。

  • 韓国の農村は上代農村のにおいをのこしている。二十世紀そのもののソウルで暮らし馴れている人が、いきなり農村へゆけば、十世紀の世界に逆もどりするような時間的苦痛を感じるのかもしれず、その苦痛は、たとえば気圧の急激な変化のなかに身をおいたような肉体的苦痛をともなうのかもしれない。(p209)
  • 急速な資本主義的発展をとげたソウルと、なお李朝的停滞のなかにある農村とのあいだには、五百年か千年のひらきがあるように思われる。(p210)

私は、今の韓国で、農村・漁村でタレントが食事を中心に過ごす様子を映すリアリティー番組「三食ごはん」が大好きでロケ地となったとある田舎町にも行ったし、その他映画でも韓国の田舎の様子というのは知っているつもりです。(まあ、エンタメ作品なので本当にリアルかどうかは真に受けない方がいいのかもしれませんが…。)

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田舎町・高敞(コチャン)で図らずも見れた田園風景。

そうして私が知っている「今の韓国の田舎」と、本作で読んだそれとは、かなり違いがありました。1971年当時はまさに、以下の写真の右の絵↓のような格好の人がいたようでした(横浜美術館で見て大好きになったポール・ジャクレーの版画)。

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横浜美術館コレクション展にて。

日本もその他の国もそうだと思いますが、今都会と田舎の発展度や文化差はかなり埋まって来ています。だから尚更、「当時の農村を旅してみたら面白かっただろうな〜」と思うのです。それは、本作のように「ちょっと昔の紀行文」にも、行った場所を問わず思うことではありますが、昔の「濃い文化」には憧れがあります。

 

外国の旅行記でもあるけど、日本文化論でもある

外国に行ったりして異文化に触れると、往々にして、返って自分のところの文化に興味関心が向いたり、本質的な気づきがあったりするものです。私もそうでした。

本作もその性質を強く帯びていて、「日本文化論」的な側面も強く感じました。そしてその彼の気づきは、なかなか新鮮でもあり腑に落ちる部分も多かったです。

例えば、日本の武士について論考している部分からは、「自業自得」「自己責任」な日本の考え方の根っこが見え隠れしています。

日本にあっては弱小勢力はそのまま不徳義でさえある。平家の敗亡は自業自得であり、織田信長によって倒滅されてゆく地方地方の弱小勢力は「かれらは競争の原理に不忠実で、だから怠けていてじだらくだからだった」とみる。ついでながらこの敗者への正義不介在の力の見方は、日韓併合後に日本人の庶民が朝鮮の庶民に対してとったあのいわれない態度に濃厚にあらわれている。(p197)

ここより後の部分でも、中国や朝鮮などで見られた貴族による統治でない、武士の勃興がもたらした日本社会の独自性を取り上げています。

鎌倉幕府という、土着者の利益を代表する体制ができて日本史はアジア的なものから解放された。さらにくだって徳川期になると、西ヨーロッパの封建制よりある意味ではもっと精巧な封建制が確立され、アジア的世界とは別個な社会をつくりあげてしまった。(p260)

私は前から、「日本もアジアの一部なのに、他のアジア諸国に“アジア”を感じるのはなぜか」というのが気になっています。ここで著者が言う「アジア的世界とは別個な社会」については、他の部分も読んで「なるほど、そういう捉え方ができるのか」と思ったので、また参考にしたいと思いました。

 

古代の人の行き来のしなやかさ、移民に学んでいた姿に思いを馳せる

大阪は百済からの移住者が拓いた(p16)という話や、本の中盤の一大テーマである、豊臣秀吉が朝鮮に攻め入った際に現地に住み着いた日本人「沙也可」の話、そして以下のような百済からの難民が文化の発展につながった話など、古代の朝鮮半島と日本の間の人の行き来を感じる描写が沢山ありました。

陸上にあった日本軍の生き残りはどこでどう船を都合したのか、百済の亡民数百人を保護して日本にもどっている。このあと、百済からの亡命者がつづき、戦後三年目には一時に二千余人がきた。さらに白鳳期といわれる芸術時代が花をひらくのも、亡命百済人たちが日本の宮廷に収容されたことをはずしては考えられない。(p355)

現代では飛行機もインターネットも発達し、物理的にも情報だけでも、全く離れた場所に行ったり現地の物事を知ったりすることはすぐにできます。でもその一方で近年は、難民の発生や受け入れが社会問題になったり、移民や難民が差別の対象になってしまうことも多いです。

そんな今だからこそ、本作で描かれていた古代の人の行き来やそれを受け入れるしなやかな在り方、やって来た移民に学んで文化を発展させた様子を読むと、「本当はこうやってお互いに学べるんだよなぁ」としみじみ感じました。今こういうことを真に実践できている場所って、なかなかない気がします。

国際化が進む今、相対する相手の出自が元々地理的に遠過ぎて、「昔よりもお互い違いすぎるから、仕方ないのかも」と思う面もあります。だけどそれは、昔もそう。というか古代の方が、お互いについての情報もなくてわからないことだらけで、そんな相手に対する怖さも今より大きかったかもしれません。

互いに学びあって良い社会を作りたいものだなあと、改めて思いました。

 

視点や描き方が面白すぎる。過去の人々の暮らし・考え方への想像力がすごい。

司馬遼太郎については、「有名な小説家だよね」というくらいの認識しかなかった私。それでも、今回初めて彼の文章を読み、「この人すごいな」とシンプルに思わされた部分も沢山ありました。

面白さを一番感じた部分は、事実認識より観念が先行するという点で、朝鮮人と日本の進歩的論客・全共闘の若者が並列されている描写。70年代という時代背景もありそうですが、その比較が新鮮すぎました。

同様に、歴史上の人物や過去の人々の暮らし・考え方への想像力や、それを活写する力に引き込まれました。私は歴史は好きですが、歴史上有名な人物それぞれへの興味はあまりないです。それでも読みやすくて助かりました。

彼の小説作品はまだ全く読んでませんが、それでも「だからあんなに人気で愛される作品になっているんだな」と、ちょっとわかった気がしています。(早すぎ?w)

 

著者の死去まで長く続いた、この国内外を旅した連載は、本も40冊以上になっています。しばらく楽しめそうな、良いシリーズ作品に出会えたな〜と思いつつ、これからも気になるものから読んでいこうと思います。

街道をゆく 2 韓のくに紀行 (朝日文庫)

街道をゆく 2 韓のくに紀行 (朝日文庫)