ふーみんLABO(仮)

26歳女が「納得できる自己紹介」を目指して執筆中。エコ・節約・映画など、私の頭の中を可視化するため、とりあえず色々書いてみようという実験です。

コロナ禍だから尚更感じた、ユーモアと映画館の大切さ。ドキュメンタリー映画「ようこそ、革命シネマへ」感想。

先日、ドキュメンタリー映画「ようこそ、革命シネマへ」を見てきました。今は映画館のない国・スーダンで、再び映画館で映画を上映しようと奮闘する映画人たちを追った作品です。

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私はこの作品の予告編を今年の冬の終わり頃見て、「これは面白そう!」と公開を楽しみにしていました。しかしコロナ禍による映画館の休館で、4月末だった公開が延期になっていました。そんな期間を経て見たこの映画は、より一層意義深く感じられました。

内容や感想をまとめてみます。

 

あらすじ


映画『ようこそ、革命シネマへ』予告編

1960〜70年代、それぞれ外国で映画を学んだ後、国際映画祭でも受賞するような作品をスーダンから生み出した4人の映画監督たち。彼らは1989年に誕生した軍事独裁政権によって、思想犯として逮捕されたり、国外に亡命したりして散り散りに。国内にあった映画館も閉館になった。

しかし今は(2015年)皆帰国して、小さな映画協会を運営し、いろんな地域に赴いて小さな映画上映会を開いている。そしていよいよ、昔映画館だったところを借りて大規模な上映会を開こうとするが、場所を借りたり許可を得るのに苦労する。

 

感想

おじさま四人衆が愛おしすぎる…。

この作品は、そこまで起伏がなく緩やかに話が進んで行きます。タイトルに「革命」なんて固い言葉が入っていますが、舞台となる映画館の名前なだけ、という感じ。厳しい現状が立ちはだかっても、主人公であるスーダンの映画人たちからは、悲壮感や怒りはそこまで感じられません。

それはやはり、彼らがこれまで重ねてきた苦労の方が大きかったからかなと想像します。牢屋に入れられた時のことや、亡命することになった時にやり取りした手紙のことを話す場面でも、「あの時は大変だった」と話しながらも、「でも今母国で集まって、当時を振り返れるようになって良かった」「今も大変だけど幸せだ」ということを言外で互いに感じあっているような雰囲気がにじみ出ていました。なんだか、「生きている限り希望はある」ということを感じてグッときました。

そんなおじさま四人衆は、ユーモアや笑いを絶やさず、いつでも朗らかで和気藹々としています。大きなスクリーンを掃除するのに四苦八苦しつつもキャッキャ言いながらやってる雰囲気だったり、全く偉ぶらず地味な作業をしたり、夜には寝床を共にして語らったり。面倒なことが起きても「ほら、厄介なことになってきた(笑)」と笑ったり。

中でも印象的だったのは、仲間の一人・マナルさんの誕生日を祝う様子。サプライズで蝋燭を立てたケーキを出すという、学生みたいなこと(笑)をしていて、若々しさを感じる一方で、「蝋燭1本で22.3歳分ね」「歳を取ったなあ」と言い合う様子は、面白くもあり感動もしてしまいました。

とっても素敵で愛おしいおじさまたち。本当に、中身は青年のままのように見えました。「こんな歳の重ね方をしたいな」と思ったし、大変な時を生き抜くヒントをくれた気がします。「こんな素敵な人たちの、願いが叶いますように」と願わずにはいられなくなりました。


時代を捉えているパーツ

作品全体を包むユーモアの一部でもあり、時代の変化を捉えているある出来事が印象に残りました。それは、野外の映画館であるために、周辺のモスクから流れるアザーン(礼拝の呼びかけ)の音量や時間帯を気にしているということ。

イスラームにおける礼拝は1日5回なので、アザーンも5回あります。昔はモスクの塔から地声で呼びかけられたものですが、今は世界中スピーカーを使うのが当たり前です。各モスクがそれぞれ流すので、音が重なればかなりの音量だし、少しずつ違うタイミングで流されれば“うるさい”時間が長引きます。

このことが象徴しているのは、映画の中でも言及されていましたが、

  • 昔はスピーカーはなかった:機械の導入、近代化
  • モスクもこんなになかった:周辺の人口の増加、「イスラーム化」

ということではないかと思います。

そして実際ある場面で、大音量でアザーンが流れてきて話の腰を折られる場面があり、映画の中の人たちと一緒に笑ってしまいました。

もう一つ、時代を捉えていると思ったのは、大統領選で独裁政権のトップが再選された時を撮った場面。四人衆の一人が「投票者数より得票数が多いってどういうことだ」とぐちぐち言ったり、大統領の勝利演説が流れるテレビを横目におじさまが寝ている様子を撮って使っていたりもしました。

映画の上映も許可しないような政府について映画内でこういう映像を使うとは、攻めてるな〜と思いました。

 

一度潰えた文化を再興する難しさと、希望

今日本では当たり前にある映画館。スーダンでは、純粋に文化的な目的で、お金も取らずに映画を1度上映しようとするだけでも大変。政府機関はどうやら、映画上映の裏にある目的を探っているようで、許可を取りに行った事務員を無駄に待たせたりたらい回しにしたり、心ない対応をします。「一度潰えたものを再興するのは、こんなに難しいんだな」と感じました。

一方、若者に見たい映画のアンケートを取ったりすると、映画館の再開を楽しみにしている人たちの姿も浮かび上がってきます。みんな、映画そのものを知らないわけではないし、不要と思っているわけでもない。だから、希望はあると思えました。

コロナ禍による映画館の休館を経て見たこの作品。上記の難しさと希望、どちらについても、映画に登場するスーダンの人たちと日本にいる自分たちが、いつも以上に重なって見えました。「映画館という場所や文化は、何もしなくても続いていくわけじゃない」と思い知った今。感謝しつつ、大切にしていきたいものです。