ふーみんLABO(仮)

26歳女が「納得できる自己紹介」を目指して執筆中。エコ・節約・映画など、私の頭の中を可視化するため、とりあえず色々書いてみようという実験です。

物語のようなドキュメンタリーで、現実の美しさと厳しさを知る。「ハニーランド 永遠の谷」感想。

先日、ドキュメンタリー映画「ハニーランド 永遠の谷」という作品を見てきました。

f:id:m_crescent:20200804235836j:image

舞台はヨーロッパの北マケドニア。隣人もいない大自然の真っ只中で、蜂蜜を取って暮らす女性を追った作品です。ドキュメンタリーなのに物語のような起伏があり、見応えがありました。いろんな映画祭で受賞しているのも納得。

内容や感想を書いてみます。


あらすじ


映画『ハニーランド 永遠の谷』予告編

ギリシャの北に位置する、北マケドニア(2019年にマケドニアから改称)の、首都スコピエ郊外。広大な自然環境が残る集落で、老いた母の面倒を見ながら、自然養蜂をして暮らす女性がいる。自然の恵みとして頂いた蜂蜜を、スコピエの市場や地元の祭りで売り、お金を得ている。

昔はいろんな民族の家族がいたが皆出て行ってしまった集落に、ある日、家畜を連れたトルコ人一家がやってきて住み着く。最初はなんとか仲良くやっていたが、家の主人が養蜂を始め、これまで女性が守ってきたバランスが崩れてしまう。

honeyland.onlyhearts.co.jp


では、次は感想を。できるだけネタバレは避けてますが、ちょっとネタバレありです。


物語のよう。

まず2つの意味で、「ドキュメンタリーだけど、物語みたいだ」と思いました。


今でもこんな暮らしが、しかもヨーロッパに…!という驚き。

北マケドニアは人口200万人という小国とはいえ、ヨーロッパで、首都に電車で出かけられるような地域にこんな暮らしがまだあるのか…!と驚きました。それは、映画に登場する2つの家どちらについても思いました。

1つは、主人公である女性の暮らし。彼女の家は、岩や、そう太くない木で支えられていて、窓も小さい。数百年前でも同じような作りだったんじゃないか?と本気で思える様子の家でした。絵本やアニメーションに出てくる、おとぎ話の中のおうち、という感じ。

きっと他の家や外壁の跡であろうものも、彼女の家と同じような石積み。それが景観にとても馴染んでいて、コンクリートでは全く出せない趣がありました。「やっぱり自然のもので作ると土地の文化になるな」と思いました。

時々映る、ひたすらに広がる草原の様子にも、圧倒されました。こんなにだだっ広いところが、ヨーロッパの、首都の郊外に…。

また、市場に蜂蜜を売りに行って、それで得たお金でおばあちゃんにお土産を買おうとするのを見て、これこそ手が届く範囲での“商売”だな…!となんだかグッときました。今は物を売り買いするにも、作り手と買い手の間にいろんな人や会社が挟まっていて、店頭で見る商品にどんな人が関わっているかなんて、想像も及ばないほど。だから、映画で見た、こんなに実感のあるお金のやり取りは貴重だなあと思いました。


そして、移住してきたトルコ人家族の暮らしも、「ザ・遊牧民」という感じで、「今でもこんな暮らしをしている人がいるんだ…!」と驚きました。使っているものこそ、トラックや車など“現代的”機械ですが、見知らぬ地域に一家で引っ越してきてしばらく居着く様子はとても新鮮でした。

また、牛を捕まえようと奮闘したり、牛の出産を、牛より小さい息子たちが手伝ったりする様子を見ると、「すごい」「命が身近だ」と思わされました。

 

ドキュメンタリーなのに、色々な出来事が発生して起伏がある。

「物語みたい」と思った理由のもう一つは、事実を映しているだけのドキュメンタリーのはずなのに、脚本でもあるかのように色々な出来事が発生していくからです。おかげで見ている間は全く飽きず、画面に惹きつけられたままでした。

撮影にかけている年数が長いからでしょうか。どうしてこんなに濃密な“物語”になったのか、気になります。

 

資本主義・グローバル化の弊害が凝縮されていた。

短期的利益の追求が生む、犠牲の連鎖

トルコ人一家は子沢山で、その大黒柱である主人は、その責任感でか、いつもカリカリしている様子でした。息子や妻を叱責したり、必要なお金をなんとか確保しようとしたり。それで、やり取りがある商人(?)に沢山の蜂蜜を売るよう要求され、「そんなに取ったらだめだ」と言う女性の忠告と板挟みになっているのもよくわかりました。

その結果、女性が大切にしてきたものをどんどん壊していくことになる様は、胸が痛みました。いつだって、壊すのは簡単だけど、作るのも守るのも大変だから。

お金を確保するために、金銭的に弱い立場にある人が犠牲になる。その悪い連鎖が繋がって、自然も、自然を大切にしてきた人の生活も壊されていく。映画を見ながら何度も「資本主義とは…」と考えさせられました。


根を張る暮らしか、壊して立ち去る暮らしか。

この映画の中で対比的に描かれた、定住者と遊牧者。伝統的な暮らし方の違いでもありそうですが、

  • 昔ながらの暮らしと、現代的暮らし
  • 自然の仕組みを大切にする方法と、そういうものは考慮しない方法
  • 長期的にみんなのためになる方法と、短期的な自分の利益だけ追求する方法

と、いろんな対比が投影されていたと思います。

そして終盤には、一家は季節の変わり目に去っていきます。蜂蜜をとる女性が大切にしてきたものを散々壊し去っていく彼らは、今の都市的な生活を象徴しているように見えました。

土地に根を張って確かな“暮らし”を営んでいる人ほど、刹那的で利己的な暮らしに蝕まれる。きっとこういうことは、世界のいろんな場所で起きている。私には、最近の豪雨や台風の被害もそう感じられます。↓

mizukifukui.hatenablog.com

最近こうして感じている「不条理さ」を、この映画でまた更に感じました。

 

何を感じたか、ぜひとも色々な話をしたくなる映画でした。気になる方はぜひ、おすすめです。