黄金町バザール2020、第2部も。印象的だった作品を振り返る。
横浜・黄金町駅〜日の出町駅の界隈で毎年開催されている芸術祭「黄金町バザール」。今年はコロナ禍もあり、2部開催となっています。私は9月には第1部に行き、先日は第2部に行ってきました。
第2部は抽選と公募で選ばれたアーティストの作品展示ですが、海外のアーティストがリモートで制作した作品も多いという、今年ならではの状況。印象に残った作品や感想をまとめておきます。
- ホアン・グッガー「すべての、そしてこの川 3」:コロナ禍の制限が、新たなチャレンジに
- アルフィア・ラッディニ「Sailormoonah」:インドネシア版セーラームーン
- ラルフ・ルムブレス「Bukas: open/tomorrow」:“今年”を残す意義
- 山田悠「Nocturne」:月が生き物のよう。
ホアン・グッガー「すべての、そしてこの川 3」:コロナ禍の制限が、新たなチャレンジに
これは作品というより、作品ができた経緯に惹かれました。
こちらのアーティストは、普段は主に彫刻を制作しているそうですが、今回渡航制限があったため映像作品を制作したそうです。
今は世界中のいろんな物・人が制限を受けて、「こうせざるを得ない」という状況。しかしこの作品の場合は、アーティストの新しいアプローチやチャレンジになっている気がして、ポジティブにも捉えられるし力をもらいました。
アルフィア・ラッディニ「Sailormoonah」:インドネシア版セーラームーン
インドネシアで活動しているこちらのアーティストの作品。あの「セーラームーン」は彼の地でも有名・人気なようで、日本の文化が生んだセーラームーンに、今特に強まりつつあるイスラーム教徒の規範意識や文化を反映させた作品です。
イスラーム教徒の女性がよくする頭のスカーフ(ヒジャーブ)やロングスカートなどで、肌の露出を控えているセーラームーンのコスプレをしている女性像を街に置き、どう思うか投票できるようにしたり、インタビューをしたりした映像群が作品になっています。
そもそも、「インドネシアでセーラームーン有名なんだ!」というところから発見だったので少し調べてみると、
- 1994年、現地で初回シリーズ放送開始(同作の海外放送としては先駆け的な国だった)
- 裸のシーンのカット、その他短縮等があった(韓国版も同様だそう)
ということでした。(参考:Sailor Moon in Indonesia - WikiMoon)
通りで、自分と同世代くらいの若者が「子どもの頃好きだった」「見て育った」と話していたんだなぁと納得。「他の(国の)作品には足りない、子どもが好きなファンタジーの要素がある」という話も出ていて、そう感じるのは国にかかわらず普遍的なんだなあと思いました。そしてだからこそ、日本のアニメは世界で人気を博しているんだろうと初めて思い至りました。
一方で、思ったより改変がなさそうだったのが意外でした。裸のシーンはダメというのは、今の日本でもまあそうだろうと思うので予想の範囲内。そして、あのミニスカートとかは許容されてたんだなあと思いました。まあアニメの中の世界だから良いのでしょう。
そして、作品の「今のイスラーム&インドネシア版のセーラームーン」とも言えるセーラームーン風の服装は、結構好評なようでした。「自分もヒジャブの上からコスプレしたことがあるから、近く感じた」という話もありました。「原作と違うから嫌だ」みたいな人はいなかったようで(少なくとも映像では取り上げられていなかった)、違和感なく受け入れられていて、それは私としては意外でした。
私は中東の文化には長らく関心を持ってきて、もちろんそれと切り離せないイスラームについても興味は尽きないのですが、今回改めてインドネシアなど東南アジアのイスラームの様相ももっと知りたいなと思いました。世界でイスラーム教徒の人数が一番多い国はインドネシアですし。
あと気になったのは、彫像って知ってますか?と聞くと「いえ」と答える人もいたこと。現地にはない・少ないのか、それともただ身近じゃなくて言葉だけではわからないのか…?それはイスラームが偶像崇拝を禁じている影響とかなのか…?と、謎が残りました。
また、展示方法も面白かったです。リモート制作でなければ、街に置かれた像も展示されたのでしょうがそれはなく。その代わりかはわかりませんが、4つの角度から像の映像を撮り、それを直方体状のスクリーンに映すことで、目の前に像と行き交う人たちがいるような、それをまた周囲から眺めているような感覚に。こういうことができるんだな〜と感心しました。
テーマなど様々な点で、面白いと思えた作品でした。
ラルフ・ルムブレス「Bukas: open/tomorrow」:“今年”を残す意義
解説文によると、「科学とまちづくりをアートに組み合わせることに関心を向け、共同体の持続可能性や回復力について問いかける参加型プロジェクト」を行なっているアーティストだそう。
その言葉通り、今回展示されていたのは、近隣地域の子どもたちや他のアーティストも参加したワークショップでできた作品や、町の歴史や思うことをインタビューした音声を使った作品などがありました。
その中で、来場者が10年後の誰か(自分でも他の人でも)に向けてポストカードを書き残すというブースもありました。会期が終わったら、タイムカプセルに入れておくそうです。
いろんなことが変わり、後々振り返っても何かの節目になりそうな今年に、何かを残しておくというのは意義深そうだなと思いました。でも、「10年後なんて、この状況で想像つかないな」とも思いました。
また、先ほども書いたワークショップでは、「2030年にいる誰か、話してみたいその誰かとの会話を思い浮かべて」木くずを使ったレリーフを作ったということです。いろんな形を自分で形作れる作品で、子どもの作品でいくつか「マスク」があり、「うわぁ」と思いました。それは、
- 今年を象徴するような物だな…ちょっと露骨かもしれない。
- マスクについての話をしたいってことなのかな
というような思いで。
山田悠「Nocturne」:月が生き物のよう。
連続して撮った写真をパラパラマンガのように動かすことで、映像のようにする「ストップモーションビデオ」の作品。会場近辺で夜空の月を追いかけて写真を撮ったようで、その月が電線や建物の上などを伝って動いていくように見えたりしました。
子どもの頃は、よく「月が追いかけてくる!」と思ったものですが、この作品ではその捉え方の延長線上、というかもっと「月が意思を持って動いている」ように感じられて、ワクワクしました。生き物か、アニメのキャラクターのような感じ。
作品数はそんなに多くないし、1部と比べてもサクッと見終わりました。11/29まで開催中なので、近隣で興味ある方はぜひ。