沖縄のローカルを知る手段として、ボランティアを選んだ。現地での10日間と映画「ZAN」で思ったこと。
先日、沖縄・辺野古が面している大浦湾を舞台にしたドキュメンタリー映画「ZAN ジュゴンが姿を見せるとき」を見てきました。
これを見ようと思ったのは、2年前、大浦湾が面している地域に10日間ボランティア活動で滞在した経験があったから。
その経験と感じたことを振り返りながら、作品の内容についても考えていきたいと思います。
映画のあらすじ
沖縄に生息する絶滅危惧種のジュゴンを見ようと訪れた先は辺野古。
そこで目の当たりにしたのは、圧倒的な自然の美しさと、それを脅かす米軍基地建設だった。
沖縄でジュゴンを探す旅に出た木佐美有が見た辺野古・大浦湾の自然の豊かさと米軍基地建設に向けた様々な立場の人びとの声。ジュゴンとはどのような生き物なのか。辺野古・大浦湾にはどのような生物が暮らしているのか。基地建設について、自然保護団体、研究者、 抗議活動に参加する市民、地元地区の住民は何を思っているのか。そして、私たちは何を守らなくてはいけないのか。沖縄の豊かな自然の中での様々な発見、体験を通してジュゴンが暮らすこの海と共に生きていくことの大切さを考えるドキュメンタリー。
こちらのハフポストの記事でも、わかりやすく取り上げられています。
沖縄・辺野古の豊かな自然、北アイルランド出身の監督が描く 映画「ZAN ジュゴンが姿を見せるとき」、横浜で公開
タイトルの「ZAN(ざん)」は、沖縄の言葉でジュゴンのこと。沖縄近海のジュゴンは、世界北限の独立した個体群だ。かつては台湾から奄美大島にかけてのエリアに広く生息していたとみられるが、現在は沖縄で数頭が確認されているにすぎない。
映画は、ジュゴンとはどのような生き物なのか、人間とどのようにかかわってきたかなどについて、地元の住民や研究者、自然保護団体の人たちの話、沖縄の伝承などを通じて考えていく。辺野古・大浦湾の海中を潜って撮られた映像は圧巻。自然の美しさを伝えていくことで、それを脅かす基地移設の問題に警鐘を鳴らす。
波を司る神として敬われてきたジュゴン。その一方で、食べれば長寿・永遠不滅の命を手に入れられるとされ、食糧難の時代には多く獲られて数が減っていったようです。
ジュゴンのいる海を守ろうとする色々な人たちの話を聞いたり、実際に水中を撮影しジュゴンの撮影を試みたり、広大なサンゴ礁をカメラでとらえたりしています。そしてそんな豊かな自然環境を、米軍基地の移設・拡大に関する問題がもう既に壊しつつあるといいます。大浦湾の貴重さと問題をわかりやすく扱っている作品です。
2015年9月、名護市・久志地域で過ごした10日間。
では一度映画の話は横に置いて、私が大浦湾周辺の地域に滞在したときのことを紹介します。
どこで活動したのか
もう2年前のことですが、2015年9月中旬に、「村おこしNPO法人ECOFF」という団体が運営する「村おこしボランティア」で、沖縄の北部(やんばる)にある名護市の東海岸・久志地域(旧久志村の地域)に滞在しました。
やんばるの入り口、名護市東海岸にある「久志地域」は海と山に囲まれた自然豊かな場所で、 観光開発がほとんどされていないため手つかずの自然海岸が残り、芸能人がお忍びで訪れたり、 映画やドラマの撮影で使われたりする知る人ぞ知る名所です。
ウミガメもたくさん産卵に来たり、ジュゴンも定期的に確認されています。地域の方のつながりも強く、様々な人が協力しながら地域を盛り上げる活動が活発になりつつあります。
そんな久志地域の中でも、私が参加した回は大浦という集落に滞在し、そこから久志地域内のいろんな場所に行って活動しました。参加者と学生インターン合計10人ほどで、地域の青年会の方の家にお世話になりました。
(この地図でいうと、大浦の下にグレーのエリアがあります。ここが辺野古の米軍基地、キャンプ・シュワブです。)
実際にやったこと
この「村おこしボランティア」は、2017年夏は13カ所で開催されているプログラムで、その開催地は国内の離島(これが大半)や、台湾、ベトナムなどにも及びます。田舎や地域おこしなどに関心がある若者が全国から集まり、現地で農作業や行事のお手伝いなどを通して、田舎で暮らす人たちと交流したり、田舎暮らしを体験したりできます。
沖縄で実際にやった活動を、写真も織り交ぜながら以下に挙げてみます。
- 大浦・久志地域の自然や歴史を教わりながら、案内してもらう(マングローブ、わんさか大浦パーク、共同売店、沖縄流のお墓など!)
- パイナップル農家さんのお手伝い(パイナップルにネットをかける作業)
- 青年会が取り組んでいる空き家改修の手伝い(草むしり)
- 地域の方たちとバーベキュー(複数回)
- 近所のおばあちゃんのマンゴー畑のお手伝い
- ビーチクリーン(浜でゴミ拾い)
- 民泊を受け入れている方のお宅訪問&畑作業お手伝い
- 飲食店の裏の浜の整備
- SUP体験
- 公民館でお祭りの練習を見学
- 豊年祭のお手伝い
- 民泊(1泊)
沖縄のローカルを知る手段として、ボランティアを選んだ。
私がこのプログラムを知ったのは、沖縄でボランティアやインターンのプログラムを探していて、インターネットで「沖縄 ボランティア」と検索しECOFFのサイトに行き着いたのが直接のきっかけでした。
では、なぜ沖縄に、なぜボランティアという形で行こうと思ったのか。
まず、沖縄は、知るべきことがたくさんある場所だと思っています。
- もともとは琉球王国という日本とは違う国で、日本に併合された
- 太平洋戦争の際は地上戦があり、多くの人が犠牲になった
- 戦後はアメリカの統治を経て、本土に復帰
- 今も、広大な米軍基地の返還・移設に関する問題がある
というように、数々の困難を乗り越えてきた沖縄。
私は中学生の頃、旅行で沖縄に行ったことはあって、そのときも平和祈念資料館やガマの跡などを見て、当時の私なりに多くのことを考えさせられました。また沖縄に行くにしても、ただ綺麗な海を見に行って楽しく過ごすだけではおかしい、とは思っていました。
また、米軍基地に関する問題はメディアで見るけれど、基地の反対運動をしているとかではない、周りに実際に住んでいる人たちの暮らしはどんな感じなんだろう?という疑問がありました。それを知るには、旅行でなく、ボランティアなどを通して現地の人と話したり、生活を体験したりするのが良いと思いました。
このような沖縄への関心と、日本のいろんな田舎を知りたいという関心が相まって、ちょうどいいプログラムだと思い参加したのです。
考えた事1 沖縄にも山はある。森もある。
沖縄というと、海やリゾートのイメージはあっても、あまり山や森のイメージはありませんでした。しかし、沖縄本島の北部は自然豊かで、山もあるのです。そのおかげで沖縄にありがちな水不足の問題はないとのことでした。
山から大浦湾に流れる川の河口は、海水と淡水(塩分のない川の水)が混ざる「汽水域」。そんな汽水域の、海水の満ち引きによっては水が満ちる場所にできた森のことを「マングローブ」といいます(木の種類を指すのではありません!)。
映画「ZAN」の中でも取り上げられていたマングローブは、上の写真と同じところです。私が行ったときはまだ出来ていなかった、マングローブを見れる遊歩道も写っていました。
考えた事2 沖縄にも田舎はある。
先ほども書いたように、沖縄には海やリゾートのイメージしかなかったし、沖縄は住みたい人も多いだろうから過疎化などはなさそうだと思っていました。
確かに、他の県と比べると沖縄県の人口はそれほど減っているとは言えません。しかし多くの人は市街地に住み、久志地域のような山間部では人口は流出しているそうです。
そしてそのような場所にこそ、昔ながらの集落や人々の交流、伝統行事が残っています。そして”開発が遅れた”沖縄北部は、自然も豊かに残っているのです。
大浦の青年会の方たちは、自分たちが楽しく育ってきた地域の良さを、今度は自分たちの子ども世代にも受け継ぎたい、そして自分たちも楽しく暮らし続けたい、という想いで活動しているそう。このような愛着や誇りがあれば、地域の未来は明るいんじゃないかな、と思いました。
考えた事3 基地とともにある「普通の住宅街」
米軍基地の問題でよく取り上げられる辺野古。辺野古は、久志地域内の集落の1つです。ここに行ってみて思ったのは、「普通の住宅街だ」ということでした。
この言葉の意味の1つは、普通の生活が送られているすぐ隣に基地があるということ。朝や晩には、基地内でアメリカ国旗が上げ下げされるのですが、その時のトランペット演奏の音も聞こえました。そのくらいの近さで生活しているのです。
もう1つの意味は、都市部に住んでいる私が見慣れているような"立派な"住宅街だということ。滞在した大浦は人口120人ほどで、それほど大きくない集落ですが、辺野古には1800人強もの人が住んでいます。これは久志地域全体の40%以上にもなります。(参考:名護市役所-人口、世帯推移)
これだけの人がここに住んでいるのは、基地内での仕事や、基地にいる米兵などを相手にした商売で栄え、基地と共存したからです。
ちなみに、名護市は基地の負担の代わりに「振興補助金」を防衛省からもらっているそうですが、入ったお金は久志地域には入らず市の中心部に使われてしまう、という話も聞きました。一方で、補助金を使って、公民館が綺麗に立て替えられている集落も多くあるようです。
しかし私が久志地域に行ってから2ヶ月経った頃、辺野古基地に近い集落3つに振興補助金を直接交付するというニュースがありました。
市に入っていた交付金が直接集落に入るというのは、良いふうにも聞こえます。しかし、これは地域内の分断も生みかねないし、公民館など既に十分お金を使って綺麗に整備されている地区なだけに、これ以上必要なのか?という論点もあります。
何にせよ、久志地域は、場所によっては振興補助金で潤っている地域で、それは基地の負担があるからだとも言えるのです。
映画を見て思った事 海の中も豊かな自然がある
映画の中では、大浦湾の水中の様子が何度も撮影されていて、10日間過ごした場所とはいえ、海の中のことは何も知らなかったな、と気づきました。ジュゴンやサンゴ礁のことは、聞いたことはあったと思いますが、印象には残っていませんでした。
ちょうど映画の序盤で、地元で採れた野菜が売られていたりする、道の駅のような施設「わんさか大浦パーク」で、ジュゴンの像の前でジュゴンや大浦湾の自然について聞き込みをしているシーンがありました。それにこたえていた人たちと同じように、大浦湾のある地域に住んでいたり訪れても、関心を持っていない限り、普段見えない海の中の環境については特に何も知らない状態になってしまうと実感しました。
思い出してみれば、10日間の滞在中は、この看板をよく目にしながら、いろんな場所へ赴いていました。「めぇごーさー」とは、沖縄の言葉で「げんこつ」を意味するそうです。
おわりに
映画「ZAN」は、少し表層的・断片的な印象も受けましたが、沖縄の諸問題の入り口として見るのに良いと思いました。
自然環境の保護などに関心がある人にも、それに関わる人たちのインタビューが多く入っているので、何か動いたり学んだりするきっかけになるのではないでしょうか。