多様な“和洋折衷”の芸術が楽しめる。横浜美術館コレクション展「東西交流160年の諸相」。
横浜美術館で開催中の企画展を、先日見に行きました。19世紀後半以降のパリで活動した「印象派」や「エコール・ド・パリ」と括られる画家たちの絵のコレクションがはるばるパリから来ているわけですが、同時に横浜美術館のコレクション展も開催されています。
個人的に、企画展よりも楽しめたので、記録を兼ねて紹介します。
コレクション展概要
開港をテーマにした展覧会の多くは、幕末・明治期の洋風表現の受容と展開、あるいはこの時期に来日した画家、版画家、写真家の活動に主眼を置いてきましたが、今回は時代を限定せず、開港期から第二次世界大戦後にいたる長い時間の中で、どのような異文化の響き合いが実現したのかを、いくつかのトピックで紹介します。
企画展の方の時代と合わせつつ、全10章に分かれて様々な展示があります。雑多といえば雑多なのかもしれませんが、いろんな角度から時代を見られたり、タイプの全く違う絵などもまとめて見られて、頭の体操になった感覚でした。
企画展の当日のチケットがあれば、企画展から続けてそのまま見ることができます(順路も続いています)。コレクション展だけでも、チケットを購入して見ることができます(一般500円)。
印象に残った展示
ポール・ジャクレーの木版画
ポール・ジャクレー(1896〜1960)は、3歳以降日本で育ち、日本の文化を愛し実践していたフランス人の画家。日本の浮世絵のような線メインの木版画でありながら、色彩の豊かさや描いた対象(ほとんどが日本以外)にはとても異国感があります。絶妙な和洋折衷ぶりが好みすぎて、この出会いがコレクション展での一番収穫でした。
私は昔から、それこそ横浜の歴史にも影響され、日本の開国・近代化に伴って日本文化と欧米の文化が出会った時代の文化がとても好きです。
今や日本でも洋服を着ているのが当たり前ですが、当時は生活様式がまるで違っていたわけで。最近はさらなるグローバル化で、現地ならではの文化や違いはどんどん薄まってきていると思いますが、明治〜大正くらいの“濃い”文化の出会い・融合を絵などでみるとワクワクします。
当時は相当珍しかったであろう「日本育ちの外国人」としてそんな時代を生きたポール・ジャクレーの絵には、“西欧”も“日本”も色濃く感じられて、でもバランスも取れている。その混ざり具合が本当に絶妙で。
日本っぽさを感じる画風ながら、描いた対象が外国の人・物ということや、なんでもないけれど失われつつある日常の風景を切り取っていることにも、心底惹かれました。
線の細さや色彩も、木版とは信じられないほど緻密で正確。凛とした存在感があります。作品にかけられた時間も感じさせます。「木版ってこんなことができるんだ」「浮世絵や版画って現代でも有効なのかも」とも思わされました。これはきっと、本物を目にしたからこそ思えたこと。ミュージアムショップにあった、彼の作品の絵はがきを見ても、サイズが小さいのもあって全然すごさが感じられず…原寸大のコピーがあれば欲しいけど。
初めて、「この画家が好きだ」と心底思いました。横浜美術館では15年ほど前に彼の作品の企画展があったようですが、またやってほしいくらい。
迫力の油絵たち。
油絵もいくつか印象的でした。抽象的ながらエネルギーを感じました。
油絵は筆跡が残りやすいから、画家の筆使いを感じたり、描かれた時のことに思いを馳せたりもしました。
中には、絵の具がこんもりと載って重なっているような絵もあり、こういった表現ができるのは油絵だからこそだなあと思いました。
こちらの作品↓は、絵の具を足で広げて描いたらしく、勢いや思い切りの良さを感じました。
めっちゃ和風に見えて西欧の影響も感じる、金屏風の絵。
金屏風に描かれているということや、いかにも昔の貴族男性を描いているのは「昔ながらの伝統的な日本の絵」という風に見えます。
しかしその一方で、写実的に描かれた木や、奥行きのある対象の配置などに、西欧の影響も感じる。とても不思議な感じもしつつ、惹かれました。
広告とは?コピーとは?
篠原有司男「ラブリー・ラブリー・アメリカ(ドリンク・モア)」(1964年)。
街に出ればいろんなところに広告はあって、そのどれもが何かをするよう勧めてきます。手が絵から飛び出していて、コーラを「もっと飲め」と迫るように勧めてくるように感じられるこの作品は、“広告というものの意図”を、端的に・象徴的に表しているのかなと思いました。
個人的に、電車の中などの広告は、見たいと思ってなくても視界に入って、「自分の意識に食い込んでくる感覚」があって嫌です。多くの人が自然にそういう広告を受け取ってしまっているけど、この作品は「広告ってこういうことだぞ」と表現しているように思えました。
そして背景はアメリカの星条旗のような柄で、コカコーラもアメリカ文化の象徴的存在。「アメリカ」「広告」「大企業」「資本主義」など、いろんなものを示唆していそうな作品です。
しかも、この作品の隣には、雑誌「美術手帖」に掲載された、作者によるこの作品の“作り方”が紹介してあります。「作ってみよう!」と呼びかけられてもいて、「コピーとは?」「コピーされたものの価値とは?」という問いもはらんでいます。誰もが簡単に写真や動画を撮れたり、大量生産されたものに囲まれているのが当然な今にも通じる問いです。
他にも、開港した頃の横浜を描いた版画など、見応えがありました。また、絵だけでなく、写真や動画、像など多様な作品があるのも良かったです。
企画展に行かれる方がいれば、コレクション展もぜひ見てみてください。
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