ふーみんLABO(仮)

26歳女が「納得できる自己紹介」を目指して執筆中。エコ・節約・映画など、私の頭の中を可視化するため、とりあえず色々書いてみようという実験です。

“間違っている社会”に、小さくても、希望という楔を。映画「パブリック 図書館の奇跡」感想。

「パブリック 図書館の奇跡(原題:The Public)」という映画を見てきました。公共図書館を舞台にした作品で、とても楽しい作品でありながら社会性もあり、今の社会の課題や考えるべきことが凝縮されたような作品でした。

内容や感想を紹介します。

 

あらすじ

youtu.be

アメリカのオハイオ州シンシナティの図書館で働く職員スチュアートは、意味のわからない質問をしてくる利用者、不思議な行動をする利用者、路上生活者など多様な市民を相手にしながらも、これまで本や図書館に救われた経験を持ち、真面目に働いている。

ある冬、街は大寒波に見舞われ、路上生活者の凍死者も出るようになってしまう。路上生活者用の避難所は全ていっぱいで、行き場のない路上生活者たち。路上生活者の一人・ジャクソンは、図書館の閉館時間後も「一晩居させてくれ」とスチュアートに相談し、仲間の路上生活者100人でフロアを“占拠”する。

その行動を糾弾することなく、フロアに残ったスチュアート。図書館の中では平和に一晩を過ごそうとしている路上生活者たちだが、その事実とは裏腹に、警察やメディアによってスチュアートが「人質事件を起こしている犯人」に仕立て上げられてしまう。

 

主な登場人物

この作品は、登場人物それぞれがいろんな過去や思いを持っていて、社会の縮図のようでした。

  • スチュアート・グッドソン:主人公。図書館で働く職員の一人。
  • アンジェラ:スチュアートが住むアパートの管理人。
  • デイヴィス:検事。路上生活者が「体臭をもとに図書館を追い出された」とスチュアートたち職員を訴えている件の示談を担当している。市長選のため、事件に便乗し、強硬な姿勢をとる。
  • ジャクソン:退役軍人の路上生活者。仲間を率いて“図書館占拠”を計画。
  • ビッグ・ジョージ:路上生活者になったばかり。目から殺傷能力のあるレーザーが出る「レーザー・アイ」を持っていると信じ込んでいる。
  • ビル・ラムステッド:警察の交渉人。息子が薬物中毒で、行方不明になっている。

では、この映画を見て思ったことを何点かに分けて書いてみます。小ネタについては若干ネタバレしますが、大筋に関してはネタバレなしのつもりです。

 

スチュアートの過去と現在

スチュアートは、実は元路上生活者で、軽犯罪の前科もありました。図書館で本を読みふけることで依存症を克服できたという過去があります。しかしこんな過去を、今路上生活をしていて前から交流もあったジャクソンたちに自分から言うことはありませんでした。

メディアや警察たちはスチュアートを「人質にとっている犯人」「前科がある」と揚げ足を取るように囃し立てます。その様子には、「今は真面目に頑張ってるのにひどい…」と胸が痛みました。

でも一方で、アパートの管理人アンジェラや、上司である図書館長は今のスチュアートの姿を見て応援しています。最後まで手助けしたり寄り添ってくれる彼らの姿に、「過去にとらわれず再起できる」「応援してくれる人がいる」と思えて、勇気・希望をもらえました。なんとも言えない感動でグッときました。

 

路上生活者が抱える多様さ

退役軍人

“占拠”した図書館でゆっくり過ごしながら、「ここには退役軍人が多いんだ」と語るジャクソン。彼自身も退役軍人で、「これまで国に尽くしてきたのに、この有様じゃ、ひどいよな」というようなことを話す場面がありました。

これまでも何度か「アメリカの退役軍人の問題」は見聞きしてきましたが、路上生活者に退役軍人が多いとは、ちゃんとは知りませんでした。「そういう問題があるんだ」と知るきっかけになりました。

parstoday.com

www.huffingtonpost.jp

こういう問題が起こる背景としては、戦場から戻ってPTSDを発症したり、軍の外の社会に馴染めなかったり、そもそも貧困層が入隊しているというようなことがあるようです。

 

精神障害

また、精神障害などを持っている人も多いようです。映画に登場する路上生活者の中にも不思議・個性的な人がいて、ユーモラスに描かれていました。「レーザー・アイ」を持っていると信じ込み、仲間も殺してしまったと話すビッグ・ジョージは、その代表例でしょう。

しかしそんな彼に、スチュアートは自分の眼鏡を渡し、「これならレーザーで人は死なない」と言い、かけさせます。これまで伏し目がちに過ごしていたビッグ・ジョージは、眼鏡のおかげで、自分の目で周りの人や世界を見れることに気づきます。

この場面、とても示唆深くて、見ている最中はえも言われぬ感動を覚えました。今振り返ると、

  • 目を開いて、直接世界を見ることで、世界が開けていく。思い込みから解放された先にあるのは、愛しい、輝かしい世界。
  • 1つ小さな助けがあるだけでも、自分の力が発揮できる。

という「人の可能性」みたいなものを感じて、力をもらえたからかなと思いました。

また、後でも少し触れますが、テレビ局の現場レポーター・レベッカは、“事件”の真相よりも注目を浴びることに関心があり、現実・真実をしっかり見て伝えようとはしていませんでした。ビッグ・ジョージに起きたこのことは、レベッカの姿勢とも対比的で、より「自分の目で見ろ」というメッセージが込められた場面だとも言えます。

 

薬物中毒、家族との関係性

そして、警察のラムステッド氏の息子マイクも、登場する場面は多くないものの印象的でした。彼はスチュアートに「心配してくれている家族がいるだけ幸せだよ」と言われたことに逆上してしまいます。「ああ、彼は家族との関係がネックなんだな…」と感じた場面でした。

 

こうして、自分だけで解決できない多様な課題を抱えているそれぞれの路上生活者の様子が描かれていたことで、心底「彼らは間違ってないなぁ」「社会の方が間違っていることもある」ということを何度も感じました。

 

今の世相を反映したキャラクターたち

愛すべき人物も多い中、今の社会の課題を投影したような登場人物も描かれていました。

 

デイヴィス:完全にトランプ大統領w

検事であり、劣勢な市長選をなんとか巻き返そうとする彼。この“事件”に首を突っ込んだのも、メディアのインタビューで法螺を吹くのも、全て選挙のためのPR。「法と民主主義」を掲げ、それを守らない市民を敵とみなし、強硬姿勢を見せる。

「これは完全にトランプ氏だ…」と、徐々に確信。ここまで見事にかぶせてくれると逆に痛快で、見事でしたねw

この映画の公開は2018年で、制作・撮影されたのはもう少し前のはず。ということは3年くらい前には撮られていたのかな?と推定します。なのに、今2020年にトランプ大統領が「Black Lives Matter」運動などへの対応で見せている姿勢と、“映画の中のトランプ”たるデイヴィスはとてもよく似ています。「相変わらずなんだなあ…」と、その被りっぷり・変わらなさに皮肉さを感じました。

一方で、デイヴィスに相対する図書館職員マイラや館長たちは、いろんな方法で彼の思惑をかわしていきます。その様子はユーモアもあって面白かったし、ちょっと希望が持てました。

 

テレビ局のレポーター・レベッカ

彼女は地元で起こった“事件”によって全国的な注目を浴び、ツイッターのフォロワーが激増したことを喜んでいます。アンジェラが、スチュアートに送ってもらった中の様子の動画について話をすると、掌を返したように対応を変えたり、しかしそれでも「事件で犠牲者が出たら話を聞くね」とあしらったり。人としてどうなんだ…と思わされました。

彼女の人物像には、「特ダネに飛びつき、過剰にセンセーショナルに取り上げる」「視聴率・フォロワー数など、数字が上がることを重視」など、多分にマスメディアの姿勢が表されていて、それをちょうど良い滑稽さにして批判的に描いているように思いました。

一方、そんなメディアのあり方に対抗する登場人物として、アンジェラがいました。アンジェラはスチュアートに「中の様子の真実を伝えなきゃ」「動画を撮って送って」と頼み、テレビ局に渡します。それこそBLM運動も、警察の“殺人”がSNS上の動画で広まったことがきっかけだったように、「当事者・目撃者が発信できる時代」であることをとても反映していました。

また、マスメディアに痛快な一撃を食らわす「生中継できないラストシーン」は、とても面白かったです。

 

大きなドタバタはないけれど、とても丁寧な脚本だったと思います。いろんな事実も取り入れられていて、スッキリ痛快!とまでは行かないけれど、随所で希望を感じられました。

何度でも、いろんな人と見て感想を話したり、何かを知り考えるきっかけにしたい映画でした。皆様も機会があればぜひ。おすすめです。